シャープの経営戦略、集中戦略のポイント
最終更新日:2024年04月03日
特定の顧客や市場に絞って経営資源を集中させることで、自社の市場での優位性を高める「集中戦略」。経営の基本戦略である「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」とならび、競争優位性を高めるマーケティング戦略として知られています。
この記事では、総合家電メーカー「シャープ」の経営戦略の中から、集中戦略の考え方に基づいて解説していきます。
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シャープの経営戦略のポイント
シャープは、独自に開発した液晶技術を武器に、家電業界で圧倒的なシェアをとってきました。しかし、2009年のリーマンショックに加えて液晶テレビの普及も重なり、大きなあおりを受けてしまいます。
このとき、シャープが液晶事業に注力していたことから「集中戦略の失敗例」として語られることがありますが、一体シャープに何が起きたのでしょうか。
液晶事業への集中投資
シャープは、2001年の液晶テレビ「AQUOS」の発売以降、液晶TVの生産量を増加しました。その後、「国内で販売するすべてのテレビの液晶化」を掲げ、一気に事業を拡大させていきます。
ところが、リーマンショックによる国際的な金融危機で市況は一変します。景気後退によるニーズ減で、液晶パネルの価格が下落。さらに円高の進行によって、売価ダウンも余儀なくされてしまいました。また、液晶技術が海外へ流出したことで、韓国や台湾などの勢力が拡大。安価な海外メーカーの登場により、シェアを奪われてしまいます。
こうして液晶事業に経営資源を集中させていたシャープは、多くの在庫を抱えることになってしまったのです。
市場調査とリスク想定不足
シャープの液晶事業が不振となった要因は、リスク想定不足です。市場に新規参入者が現れるリスクや代替品の登場を、事前に予測できなかったことが原因とされています。
また、市場ニーズが「世界最高峰の液晶品質」よりも「価格」であったのを見抜けなかった点も原因のひとつです。ユーザーニーズの事前調査がいかに大切かが分かります。
優れた技術開発力
液晶事業こそ不振に終わってしまいましたが、シャープは優れた技術開発力で、業界を世界規模でけん引してきました。シャープペンシルや電卓、テレビラジオ、電子レンジ、太陽電池など、今では身近になっている多くの商品を、どこよりも早く開発してきた実績を持っています。
そもそも、競合他社や他国のメーカーが安価で液晶パネルをつくりはじめたのには、「真似されるような製品をつくれ」というシャープの創業者・早川徳治氏のマインドが受け継がれてきたことも影響しているでしょう。
シャープはこれまでに、他社に先駆けてクリエイティブな製品を開発し、量産することで差別化を図ってきました。さらに、差別化した特定の市場に経営資源を集中して優位性を確立してきたのです。
他社に真似されてもなお、先駆けて製品や技術を開発するシャープの精神そのものが、集中戦略につながっているのかもしれません。
買収からすぐに黒字回復
シャープは液晶事業の不振から、2016年に台湾企業である鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されました。当初は国外への技術流出やシャープの消滅など、ネガティブなワードばかりが囁かれていましたが、4月のホンハイの買収後、第3四半期の10~12月期には早くも黒字化を果たしています。
ホンハイと協業してプロジェクトを進めた結果、製品の開発スピードが向上。「ヘルシオホットクック」というヒット商品も生まれました。
シャープの独創的な技術開発と台湾の精密機械製造のノウハウを活かした、スピーディーな事業再建が注目されています。
シャープの経営戦略まとめ
シャープは、どこよりも先駆けて新しい製品を開発し、集中して量産することによって大きく成長してきました。景気の変動や他国メーカーの台頭に影響され、不振におわった歴史もあるものの、創業以来、「真似されるような製品」の開発に注力することで他社との差別化を図っています。
集中戦略に限らず、経営やプロジェクトを進める上で、事前に詳しく市場調査を行いリスクを想定しておくことは重要です。他社との差別化を図りたい方は、自社ならではの強みとユーザーニーズを分析したうえで、競合調査・市場調査も実施するなど、戦略の基幹要素を振り返ってみましょう。
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