プロダクトレッドグロースを自社の戦略に活かすためのポイントを紹介
公開日:2022年07月25日
最近、顧客獲得の手法のひとつとして、「プロダクトレッドグロース」という成長戦略が注目されています。比較的新しい手法のため、まだこの言葉に耳なじみのない方も多いのではないでしょうか。
ここでは、プロダクトレッドグロースの概要や、それをもとに戦略を打ち出すメリットなどについて分かりやすくまとめました。プロダクトレッドグロースが注目される理由やマーケティング戦略に活かす際のポイントや具体事例の解説もぜひ参考にしてみてください。
プロダクトレッドグロース(PLG)とは?
プロダクトレッドグロース(PLG/Product-Led Growth)とは、日本語に訳すと「製品が主導として成長する」という意味を持つ言葉で、「製品主導でセールスを進める戦略」という意味合いがあります。
分かりやすく言うと、「プロダクト=製品自身が、商品であると同時に営業やマーケターの役割も果たす」という状況です。
無料の体験版から有料版につなげる流れ
プロダクトレッドグロースのビジネスモデルは、SaaSツールを商材としているアメリカの「Slack」や「Zoom」に代表されます。
SaaS系のツールでは、売り出す際にまずプロダクトを1か月間無料で開放して、エンドユーザーに体験してもらうことが多いです。その後、プロダクトが気に入ったユーザーを有料版へ誘導する、という流れで製品が売れていきます。
これが「プロダクトレッドグロース」です。
営業やマーケターが製品の良さをアピールして売り出さなくても、ユーザーが製品の価値を感じることが顧客獲得につながります。まさに「製品が製品を売ってくれる」ビジネスモデルと言えるでしょう。
人の手を介さないのがポイント
「プロダクトレッドグロース」というビジネスモデルの重要なポイントは、ユーザーが有料版に切り替えるまでの間、営業やマーケティングなど人の手を全く介さない点です。あくまでもエンドユーザーが「自発的に」有料のプロダクトに切り替えてくれる、購入してくれるという仕組みが肝心です。
なぜこのようなビジネスモデルが事業成長のポイントとなるのか、注目されている理由を詳しくご紹介していきます。
プロダクトレッドグロースが注目される理由とは?
PLGが注目される理由を知るために、まずは従来のマーケティングとの違いについて知っておきましょう。
セールレッドグロース(SLG)との違い
プロダクトでプロダクトを売るPLGに対し、セールスの担当者が製品を販売する「セールレッドグロース(SLG)」という従来のマーケティング手法があります。
セールレッドグロースの流れは、営業担当者によるマーケティング活動によってリードを獲得し、リードに対してアプローチを行い商談し、受注や契約につなげていきます。
SLGでは、ひとつの製品を売るために、営業担当者がターゲティングや顧客情報の収集を行い、見込み顧客ごとにアプローチの方法を工夫して、それぞれに興味を持ってもらう必要があります。そして顧客は契約時にはじめて、プロダクトに触れることになります。
SLGの大きな問題点は、顧客になってもらわない限りはプロダクトの使用感や利便性などを感じてもらいづらいというところです。効果を実感できるのは契約をしてお金を払ってからなので、ユーザーは慎重な姿勢を取ることが多いです。
また、営業担当者の手腕や努力によって成果が左右される、チームで情報共有をしながら売り込むため、進捗状況にムラがあるといった課題もあります。
このような課題を、脱属人化によって解決するのがプロダクト(製品)主導のプロダクトレッドグロースです。
従来のマーケティングの課題を解決できる
プロダクトレッドグロースは、プロダクトが直接顧客に「売り込みをかけてくれる」ため、SLGのような営業の流れが不要です。また、製品自体が営業・マーケティングの主な役割を担っているために、営業担当者やチームの能力に左右されず、より多くの顧客に対し営業活動ができます。
人間による営業活動よりも多くの成果を挙げられる戦略として注目されたPLGは、アメリカを中心に手法が体系化されていきました。実際に北米では、PLGを実践するスタートアップ企業が多くの実績を挙げています。
プロダクトレッドグロースのメリット
製品・サービスの魅力を直に伝えられる
プロダクトレッドグロースを行うと、自社の製品やサービスを、ユーザーにすぐに試してもらえます。特別な営業や売り込みをかけなくても製品・サービスの使い心地や利便性を体験してもらえるので、営業担当の文言はもちろん、文章や画像、動画などによるセールスよりも魅力を伝えやすくなります。
顧客の利用状況に合わせたPRができる
プロダクトレッドグロースによって、顧客がプロダクトを利用している状況に合わせて最適な提案ができるようになります。顧客がプロダクトを試している最中に便利な機能の使用を薦めたり、少人数のチームに合わせた導入プランを用意したりすることで、プロダクトレッドグロースで成約に繋がるプログラムを組むことが可能です。
そこからさらに機能がより充実したバージョンアップを薦めるなど、アップセルを検討してもらえる機会もつくり出せます。
コスト削減・利益拡大につながる
プロダクトレッドグロースでは、顧客の製品・サービス利用時のデータを分析して顧客に合わせたマーケティングを行います。逆に言えば、興味を持ってもらえない、価値やニーズに合わない際には、その顧客に対して無理に薦める必要がありません。無駄なマーケティングを行わなくても済むため、コスト削減が実現できます。
また、顧客はプロダクトを体験し、価値や魅力を知った上で購入しているため、既にある程度信頼度を得られた状態にあります。有料版への変更や高度な機能を持つプランへの変更など、アップセルが成功する可能性が高まるため、利益拡大につながりやすいです。
プロダクトレッドグロースに必要な要素
次に、実際にプロダクトレッドグロース(PLG)をする上で必要な要素や注意点を知っておきましょう。
プロダクトの価値を高める
どんなにプロダクトレッドグロースの仕組みを工夫しても、肝心のプロダクトの質や価値が低いと、購入や契約にはつながりません。まずは機能を追加したり利便性を高めたりして、プロダクトの価値を高めましょう。
ただし、プロダクトの本来の目的から遠い機能の詰め込み過ぎは要注意です。プロダクトレッドグロースのゴールは、顧客が「使いやすい」「良い製品だ」と自ら判断する状態です。価値を高めるにしても、常にユーザービリティを念頭に置き、逆に使いづらくならないように注意しましょう。
プロダクト内のマーケティングを決める
次に、プロダクト内で実行される具体的なマーケティング施策を決めていきます。例えば、顧客がプロダクトを使用している間にチャットボットによるメッセージの送信や、参考にしやすいQ&Aの用意が挙げられます。
顧客が求めそうな機能を持つ別プランを、期間限定で無料利用できるようにするなども効果的です。
複数のプランを用意する
プロダクトレッドグロースでは、複数のプランを用意しておくことが大切です。無料プランやスタンダードプラン、プレミアムプランなど、目的や予算に合わせて選択できるように複数のオプション準備しておいてください。なぜなら、そうしたほうがトライアルが成約に繋がりやすくなるからです。
また、「お試し期間」の提供の仕方も複数のパターンが存在します。
製品・サービスを部分的に無料利用できる権限を一定期間提供するのが「フリートライアル」です。他には、下記の選択肢もあります。
- プロダクトを部分的に無料利用できる権限を無期限で提供する「フリーミアム」
- 実際に商品を使って見せて使用方法や使い心地などをユーザーに訴求する「デモ」
自社製品・サービスに合ったモデルを選んで、成約を獲得しましょう。
カスタマーサクセスを導入する
プロダクトレッドグロースは、基本的に営業から製品販売、サポートまでを完全プロダクト内で行うことで効率化を図る戦略です。
顧客がプロダクトを利用している最中に何らかの問題が起きたときにも、プロダクト内で問題を解決できるサービスを準備しておきましょう。FAQなどのカテゴリを設ける、カスタマーサポート部門にアクセスできるようにするなどの手段を用意します。
プロダクトレッドグロースの事例
ここでは、実際にプロダクトレッドグロースによって事業を成功させた、代表的な事例を紹介していきます。
Zoom
ビデオ通話やチャットサービスを提供している「Zoom」は、コロナ禍をきっかけに認知度が劇的に上がり、ブームにもなったサービスです。
Zoomは企業で行われる会議時間の平均が45分であるというデータをもとに、40分の無料版プロダクトを制作しました。ユーザーが実際に無料でZoomを利用し、「もう少し時間が欲しい」と思わせることで有料版への移行を薦めた結果、圧倒的な成長を遂げています。
Slack
Slackは、ビジネスに関するやりとりを完結できるチャットツールです。
Slackでは無料版と有料版でメッセージ履歴が表示される件数やセキュリティ機能に違いを持たせて、無料で製品を体験したユーザーに対して有料版を訴求しています。
また、取引先の連絡方法として使用するように薦め、企業間でのニーズを広げていきました。ユーザー自身が「もっと履歴を表示したい」「会社で導入して取引先との業務も効率化したい」と思わせて有料版の検討につなげ、成功をおさめています。
プロダクト自らが顧客を連れてくる新しい戦略
プロダクトレッドグロースは、プロダクト(=製品)そのものが、営業担当者やマーケターの代わりになって、効率よく製品の魅力を伝え、そして売ってくれる新しいマーケティング戦略です。
人の手を介さず、自動的に製品が売れていく仕組みづくりをすることによって、顧客あたりの利益率が高くなり、大きな事業成長につながる可能性を秘めています。
ただし、プロダクトレッドグロースが実現しづらい製品・サービスが多いことも事実です。
この記事で紹介したSaaSツールは、使用するユーザーが多ければ多いほど利便性が高まる「ネットワーク効果」を利用しています。利用するユーザーに関係なく効果が同じ製品・サービスなどは、従来のセールスレッドグロースのほうが効果に繋がるケースもあります。
見込み客への認知を高めるマーケティング戦略でお悩みなら
プロダクトレッドグロースを取り入れることで、プロダクトそのものが営業の役割を担ってくれるようになります。
併せて、見込み客をプロダクトにたどりつくためのマーケティング施策も重要です。口コミが認知度向上につながりやすいチャットツールなどでも、ユーザーを集めるために広告などが必要でしょう。もしその段階でプロダクトと相性の良い悩みや課題を持った見込み客を集めることができれば、プロダクトレッドグロースによる契約率も高めることが可能です。
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