東レのマーケティング戦略・経営戦略を分析
公開日:2022年04月04日
東レのマーケティング戦略のポイント
合成繊維事業を担う「東レ株式会社」は、日本国内に103社、海外に180社のグループ企業を持つグローバル企業です(2022年4月末現在)。ファーストリテーリングと「ヒートテック」を共同開発していることで有名ですが、主な売り上げはBtoB。マーケティングについても法人向けに戦略を立てています。
さまざまな分野に進出
東レが進出している分野は、合成繊維だけではありません。樹脂、ケミカル、フィルム、電子情報材料などのさまざまな分野で先端材料や高付加価値製品を提供しています。航空機製造業界や自動車産業でも、東レの炭素繊維複合材料が使われています。売り上げでみると、4割が繊維関連、4割が機能化成品関連、残りの2割が炭素繊維複合材料など他の事業です。
多分野に進出するにあたり、東レではマーケティングとセールスが一体となって業務を遂行。繊維事業や樹脂・ケミカル事業など、事業本部ごとにマーケティング戦略を立て、実行しています。
海外の認知度アップを狙ったデジタルマーケティング
東レの経営戦略においては、海外事業のさらなる拡大も狙っています。その一環として、ウェブサイトを中心とした海外向けデジタルマーケティングを推進。社内に海外向けのデジタルマーケティングの経験がまだ少なかったため、東レは外部のマーケティング企業と組んで、自社の自動車材料のWebサイトを中心にまず3ヶ月のテストマーケティングを実施しました。SEO改善やリスティング広告の掲載を行った結果、ターゲットとしていた北米の見込み顧客から狙いどおり問い合わせが増加。
東レは海外での認知度を上げるため、海外向けデジタルマーケティングを強化しています。注力する分野を絞って外部のノウハウを取り入れることで、マーケティング活動が成功する可能性を上げるための措置を講じていることが分かります。
東レの経営戦略のポイント
市場参入と市場の理解を行う
東レは単独で海外でのマーケティング施策を実行することが難しい場合は、他社とアライアンスを組んで市場参入を試みています。
たとえば、ボーイングにアプローチする際、米国のFAA(連邦航空局)が行っている構造部品の仕様設定に、東レのみで対応することは困難でした。そこで、炭素繊維の製造技術を持ち、軍需・航空宇宙産業とのネットワークも有している米UCCと技術・販売提携することを決定。これによりFAAが設定した仕様に対応した二次構造材をボーイングに提案することに成功しました。
その後、一次構造材については単独でアプローチするなど、一つの分野で構築した関係性を隣接分野にも活用しました。技術・販売において他社とアライアンスを組むことで、自社が持っていない新たな技術やノウハウを身につけて市場を理解し、ほかの分野や用途に展開しています。
企業買収で需要にこたえる生産体制を確立
技術・販売提携のほか、合弁会社の設立や他社買収という戦略をとることもあります。
2011年、自動車産業にアプローチするため、炭素繊維複合材料製の部品を設計するダイムラーと部品を成形する東レが合弁会社を設立。合弁会社を設立するということは、互いにリスクをとって中長期的事業を行うということです。合弁会社として連携することで、炭素繊維複合材料製部品の生産技術を蓄積しています。
また、部品販売を世界の自動車メーカーに横展開するため、レーシングカーを設計・開発する「童夢カーボンマジック」社を買収。炭素繊維複合材料製の部品を試作できる機能と低コストで生産するノウハウ・設備を獲得することができました。企業買収により、原料糸から成形品の設計・開発・生産を一貫して行い、自動車メーカーの需要にこたえられる体制を確立しています。
この記事のまとめ
東レは合成繊維企業の国内最大手であり、ファーストリテーリングやボーイングなどの有名企業と取引しています。しかしながら、現状に満足せず、「繊維の会社」というイメージを変え、海外では企業イメージを確立するためにさまざまなマーケティング施策を講じています。
また第3者との提携やアライアンス、企業買収を通じて東レは戦略的にノウハウと業界のコネクションを築いています。自社だけで対応できる分野とそうでない分野を見分けたうえで、成功に繋がるアクションを取っていることが東レのマーケティング戦略・経営戦略の1つの特徴と言えるでしょう。
自社の課題を把握したうえでの行動は、マーケティング戦略・経営戦略を成果に繋げる重要な要素です。自社の戦略を改善するに当たって、まずは自社のいる市場にはどのようなユーザーがいて、どのような悩みや課題に対して自社商品やサービスが役立つのかを整理してみてください。
ターゲットユーザーが自社を選ぶ理由となる「自社ならではの強み」を明確化したら、外部パートナーとの提携で自社の弱点を補いながらマーケティング施策を打ち出しましょう。自社の強みと新たなノウハウ・技術を組み合わせれば、ユーザーが自然と自社を選んでくれる戦略が実現可能となります。