ペネトレーション戦略(市場浸透価格戦略)とは?事例やメリットを解説
最終更新日:2022年03月27日
ペネトレーション戦略とは?
自社が新たに展開する商品やサービスをより多くの人に利用してもらう戦略を検討する際、さまざまな手法が考えられます。なかには価格設定において利用者の増加を目指すケースもあるでしょう。
多くの人に利用してもらうために低価格を展開するのはペネトレーション戦略と呼ばれます。具体的な事例や特徴などを解説するので、低価格戦略を検討している方は参考にしてください。
正しくはペネトレーションプライシング戦略
一般的にペネトレーション戦略と呼ばれていますが、ペネトレーションプライシング戦略というのが正しい単語です。下記のふたつを組み合わせています。
- Penetration:浸透
- Price:価格
まずは多くの人に利用してもらうというのが市場浸透価格戦略です。
ペネトレーション戦略の流れ
ただ安さで売る戦略ではありません。流れは将来を見据えて主に3段階に分けられます。
- 利益が出にくい価格設定で提供
- 市場で大きなシェアを獲得する
- 価格の見直しを実施する
利益が出にくい価格設定で提供
市場を把握した上で価格を設定します。利益のでる価格設定では他企業との競争に勝てないため、利益ではなく赤字になる設定、または原価をギリギリ補えるものの利益の出ない価格設定が必要です。
市場で大きなシェアを獲得する
他社には真似のできない価格は、市場における大きなシェアを獲得できるまで続けます。生産コストを低下させられる状況になることが、この戦略を続ける目安です。
価格の見直しを実施する
市場において地位を獲得できたら、本来の価格設定へ見直します。もちろん大量生産することで製造コストが低下し、利益がでるようになっても価格据え置きで問題ありません。
ペネトレーション戦略が向いている事例とは
低価格なら市場におけるシェアをとりやすいとも思えますが、必ずしも低価格戦略で成功するわけではありません。
ペネトレーション戦略を選択するのが向いている事例としては下記が挙げられます。
- 今後成熟する市場への参入である
- 大量生産でコストダウンが見込めるか変動費率が低い
- 当面利益がでなくても耐えられる企業体制である
今後成熟する市場への参入である
規模はまだ一般的ではなく、成熟途中や発展途上である市場が最適です。
成熟している市場は既にユーザーが多く、既に別企業における固定ファンが多いなかで低価格を打ち出したとしても、大きいシェアを横取りして獲得するのは簡単ではありません。
ただし、日本で既に市場が大きくても下記の状況なら成功しやすくなります。
- まだ市場が広まっていない国や地域へ進出する
- 他社にはない新たな付加価値がある
ただ市場へ参入するだけではなく、自社がシェアを拡大できる要素が必要です。
大量生産でコストダウンが見込めるか変動費率が低い
シェア獲得後は大量生産につながり、原価コストを抑えられるのがペネトレーション戦略の効果のひとつです。
生産数が増加しても原価コストが下がらないなら、大きなシェアをとったところで利益を上げられません。反対に利益が少ない受注が増えて企業の体力がなくなってしまいます。
原価を下げられない場合でも下記のケースなら大量生産が利益増加につながるので問題ありません。
- 製造者のスキルアップにより生産量が上がる
- 新たな製造工場稼働などで効率化される
- 製造作業の稼働率増加が間接費削減につながる
他にもデジタルデータ販売やソフトウェアなど、そもそも変動費率が低いまたはほとんどかからない商品も大量受注するほど利益が高くなるためペネトレーション戦略に向いています。
当面利益がでなくても耐えられる企業体制である
ペネトレーション戦略は浸透されるまでに日数がかかる戦略です。
つまり利益率が上がるまでにも長期間を要するため、当面の間は我慢できる企業体制でなければならず、下記の状況にあってシェアをとれれば巻き返せる状況でなければいけません。
- 他のサービスで利益を上げている
- 投資金が潤沢にある
- 今後もなくならない市場である
単純に企業の利益減少を理由にシェア拡大のために低価格な新製品を発売するのは、事業状況を悪化させる悪手になります。
市場浸透価格戦略を検討する際の注意点
ペネトレーション戦略を考えるのは、目的とする市場がまだ開拓状態にあるタイミングで行なうのが一般的です。しかし下記の状況でも検討したくなる場合もあるでしょう。
- 自社が新たな商品ジャンルに挑戦する
- 新商品をだすが同市場のライバルに食い込みたい
広めたいという気持ちから、つい低価格で提供したくなりますが市場におけるポジションをきちんと見極めなければいけません。
東洋経済オンラインでも、下記のように解説されています。
製品ライフサイクルも、その商品がなくなって初めて、ある時点でどこにいたかが事後的にわかるものである。また製品ライフサイクルでしばしば間違うのは、市場は既に成長期なのに、自社にとっては新製品なので導入期の戦略を採ってしまうことである。製品ライフサイクル論は、あくまで市場から考える理論なのである。
引用元:東洋経済オンライン「フレームワークに頼りすぎる人が見落とす視点」(https://toyokeizai.net/articles/-/302837?page=2)
ペネトレーション戦略の効果とは
価格戦略は、得られるべきメリットだけではなくデメリットも踏まえて検討しなければいけません。双方をみていきましょう。
市場浸透価格戦略のメリット
まずはメリットからです。
- 市場における代表的な企業になれる
- ターゲット層が幅広くなる
- ブランディングも同時にできる
市場における代表的な企業になれる
市場における企業の代表的な存在になれるのが大きなポイントです。今後、改良品や後続品など新商品を販売する際にも注目を受けやすくなります。
市場内において大きなシェアを獲得できれば、自然に利益も安定します。自社がまだ代表的な商品を販売できていない状況においては、知名度の上昇にもつながるので成功した際企業におけるメリットは計りしれません。
ブランディングも同時にできる
「○○の商品を購入する際は○○のメーカー」というようにシェアが大きくなることで企業のブランディングも同時に進められます。他の企業との差別化により、商品展開や戦略も立てやすくなります。
ターゲット層が幅広くなる
価格を安価にするため、ターゲット層は富裕層だけではなく低所得者層や中間層など幅広い顧客が対象です。多くの顧客に広められるのはもちろんですが、購入者層の情報も集められます。
高価格帯に強い企業は、従来では得られなかった顧客情報を入手でき新たな商品開発にもつながるのです。
市場浸透価格戦略のデメリット
続いてデメリットについてもみていきましょう。
- 利益になるまでが長い
- 長期的な消耗戦になる場合がある
- 低価格ブランドと印象付けられる
特にデメリットはしっかりと把握しておかなければ企業の経営状況悪化につながりかねません。大きなメリットがある一方で、ハイリターンな戦略でもあるのです。
利益になるまでが長い
1段階目として利益がほとんど出ないもしくは赤字になるため、当面の間は収益につながりません。注意点の部分でも説明したようにシェアを取るまでの期間、企業は赤字でも耐えられる体力が必要です。
既に他の事業で大きな収益を上げている、資金面のバックアップがある状態でなければ続けるのは難しくなります。
長期的な消耗戦になる場合がある
利益がでるまでの間は企業にとって、大きな消耗戦になりやすい点に注意が必要です。シェアを大きく取れなければ利益のでる価格設定に戻せません。
同様に低価格帯で勝負をかけている企業があるなら、お互いに体力を削りあってしまいシェアを獲得して値上げをした際には利益を取り戻すのが難しい状況になるケースも考えられます。
低価格ブランドと印象付けられる
シェアの上位に食い込みブランディングされる点はメリットですが、低価格企業という印象は下記の状況につながりがちです。
- 品質に力を入れていても低品質と思われてしまう
- 値上げした際に反発を受ける
他の企業に勝てる価格でありながらも、安すぎると思われない絶妙に設定しなければいけません。
ペネトレーション戦略の事例
続いてペネトレーション戦略に成功している企業の事例をご紹介します。
アマゾン
画像引用元:アマゾン公式サイト(https://www.amazon.co.jp/)
料金
1500円以上送料無料→全商品無料→350円(税込)、プライム会員なら無料
詳細
今では名前を知らない人もいないほどのAmazon。日本で通販サービスを開始した2000年11月当初はまだ大手販売事業者の参入があったものの、インターネットで商品を購入するのは一般的ではありませんでした。
当初は商品の送料が必要だったものの、2009年にはキャンペーンとして送料を無料、翌年には全商品無料を標準サービスとしました。
以降通販といえばAmazonをイメージするような大きなシェアを獲得し、2016年に一部ジャンルや有料のプライム会員を除いて再度送料を有料に変更しています。
完全に有料にするのではなく、ヘビーユーザーである有料会員などは無料を据え置きにしている価格設定も見習うべきポイントです。
ポイント
- 利用者が増加し始めていた通販市場
- 当初はキャンペーンとしてスタート
- 値上げの価格改定時にもヘビーユーザーには影響なし
SmartHR
画像引用元:SmartHR公式サイト(https://smarthr.jp/)
料金
<2018年変更前>
- 1〜5名:1,180円
- 6〜15名:4,800円
- 16〜30名:11,800円
- 31〜50名:23,800円
- 51名以上:要見積もり
※税不明、月額プランの場合
<2018年変更後>
- 1〜50名:600円/人
- 51名以上:要見積もり
※税不明、月額プランの場合
詳細
キャククルをみている方のなかにも、労務関係の手続きはSmartHRで行なっている方もいるのではないでしょうか。
2021年現在、労務ソフトのなかでも大きなシェアを占めるSmartHRが立ち上がった2013年当初はマイナンバー制度が始まった時期でもあり、今後労務関係の作業が電子化されることも予想されていました。
今後需要が増えるであろう労務ソフトの市場において、利用ユーザーに対して高いと思う価格をあらかじめヒアリングしているのも重視するべき点です。
ソフトのように製造原価が存在しないサービスでは、利用者が考える価格帯を把握しつつ設定しなければいけません。
価格改定の際にはすべての利用状況で値上がりするわけではなく、料金が発生する単位を変えているのも値上げと思わせないのもポイントです。
ポイント
- 今後電子化が一般化するのが予想される市場
- 希望価格をあらかじめヒアリングして把握していた
- 価格変更時に料金体系ごと変更
PayPay
画像引用元:PayPay公式サイト(https://paypay.ne.jp/)
料金
加盟店手数料無料→有料(2021年7月時点で未定)
詳細
エンドユーザーに対しての料金ではなく、導入する加盟店側の料金でペネトレーション戦略を実施した事例です。
QRコード決済は市場として出来上がってはいたものの、政府によるキャッシュレス化を推進するまでは充分に広まっている状況とはいえませんでした。
通常なら3%ほどの加盟店手数料決済を0円として、まずは利用できる店舗数を増加させています。個人の飲食店で導入されている事例も目立ち、QR決済といえばPayPayというほど大きな存在になりました。
ポイント
- エンドユーザーではなく店舗の手数料を無料に
- 店舗のシェア率が高くなった時点で有料化
- 政府による後押しで成長する市場と判断
- ソフトバンクという大企業のグループ会社
楽天モバイル
画像引用元:楽天モバイル公式サイト(https://network.mobile.rakuten.co.jp/)
料金
0円→0円〜3,278円(税込)の自動切替プラン
詳細
長い間3大キャリアが続いていた携帯電話事業に参入した通販事業大手の楽天グループ。元々MVNOとしても携帯電話契約を提供していましたが、自身が第4のキャリアとして参入した際には1年間0円プランを打ち出しました。
2021年7月時点ではまだ大きなシェアを獲得している最中の段階で、0円プランから値上げをしたものの他キャリアにも負けない価格設定です。
なお携帯電話市場は成熟しきっている分野ですが、以下の面で今後も従来と市場の動向が同じであるとはいえません。
- 独占状態の3キャリアに参入した新たな通信事業者
- 5Gという新たな技術開発が進んでいる
- 政府による携帯料金値下げが行われている
既に楽天グループとしてポイントを有効活用できる楽天経済圏に取り込めるのも、ペネトレーション戦略を打ち出せる大きなポイントです。
ポイント
- 通販事業など別分野での収益がある
- 成熟しきった市場に変化が訪れたタイミング
- 0円なのでお試しで利用する人も多い
- 自社の他サービス利用に取り込めるメリットが大きい
ペネトレーション戦略とは使いどころが難しい戦略
市場浸透価格戦略は成功すれば市場にて大きなシェアを獲得でき、収益が安定しつつブランディングも同時にできる戦略です。
しかしながら原価コストが発生する場合は当面赤字が続くため企業に体力がないと難しい方法でもあります。
下記の点は必ず把握しておかなければいけません。
- 既に成熟しきっている市場ではないか
- ライバルに勝てる価格設定が可能であるか
- 長期にわたった場合赤字が続き企業のダメージに繋がらないか
- 市場における自社の位置
セグメントして市場浸透価格戦略を進める戦略も
市場における最安値を狙うと企業の体力が続かないと判断する場合は、大きな市場全体ではなくセグメントして限られたフィールドで仕掛けるのもひとつの方法です。
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