技術経営(MOT)とは?戦略の重要性・メリットを解説
最終更新日:2021年10月29日
近年、技術経営(MOT)に注目が集まっています。
日本では名目GDPの産業構成比で18.5%も製造業が占めており「自社のコアコンピタンスは持ち前の高い技術力」としている企業も少なくありません。
そのため技術経営(MOT)を取り入れるか否かが企業存続には重要な鍵となる、と考えている企業も多くなってきているのです。
こちらでは技術経営(MOT)とは何か、今注目されている理由やその背景などについて解説いたします。
※参照元:「日本では名目GDPの産業構成比で18.5%」(2013年)経済産業省(https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2015/honbun_pdf/pdf/honbun01_02_01.pdf)
技術経営(MOT)とは
技術経営(MOT)は「Management of Technology」の略で日本語では「技術経営」となります。
技術経営とは、技術の知識と経営能力の両方を合わせた経営手法で、これら両方の分野を企業内でどのように役立て、管理していくかを示すものです。
自社の保有している科学や工学分野の知識、ノウハウをどのように製品やサービスに活かせるかを考察していきます。
従来日本の教育体制ではテクノロジーは科学技術の分野で、マネジメントは経営学の分野として分けて考えられてきました。
しかしどちらか一方が疎かになっても、経済的価値は創出されません。
そのため自社が保有している技術を経営資源として捉え、その技術をうまく経営に結び付けられる人材が必要不可欠になってきているのです。
技術経営(MOT)が今注目されている
なぜ今、日本の企業が技術経営(MOT)を導入する必要があるのでしょうか。
日本は1990年代以降、国際競争力は徐々に後退し、さらなる産業競争力衰退が危ぶまれています。
日本の技術力は世界屈指であるにも関わらず、国際競争力ランキングでは第8位となっており、決して良い結果とは言えません。
これは日本の高い技術力が事業活動に活かせていない傾向が高いことが伺えると言えます。
事実、成功体験から次のビジネスに繋げようとすることが多い日本企業には、圧倒的に技術経営(MOT)に精通した人材が足りていないと指摘されており、技術経営(MOT)を全く知らなかったという企業役員もいます。
現在では技術経営(MOT)を実践し成功を収めた「GAFA」の台頭以降、技術経営(MOT)の重要性がビジネスを行っていく上で重要ということが認識されるようになり、国策として取り組みが始められるようになりました。
※(GAFA=Google・Apple・Facebook・Amazon)
技術経営(MOT)の意味
自社に他社を圧倒するような優れた技術力があったとしても、その技術力によって経済的価値が創出できなければ、宝の持ち腐れとなってしまいます。
自社の優れた技術力を経営資源のひとつとして捉え、事業として継続していくためにどのように活用していくのかを考えること、これが技術経営(MOT)本来の意味です。
優れた技術力を卓越した経営手腕によって経済的価値の創出に結びつけることが目的なのです。
MBAと何が違うのか
経営学の大学院修士課程を修了すると授与されるのがMBA(Master of Business Administration)です。
米国ではMBAを取得しているか否かによって、企業の幹部候補となれるかが決定することもあります。
そのようなMBAは「研究→開発→事業化→産業化」という4つのイノベーションプロセスのうち事業化と産業化のステージに重点をおいて経営管理手法を学びます。
一方で技術経営(MOT)は研究と開発のステージに重点をおいて経営管理手法を学びます。
どちらのステージに重点をおいて経営管理手法を学ぶかが、MBAと技術経営(MOT)の違いと言えます。
技術経営(MOT)の重要性
技術経営(MOT)が国策として取り組まれるなど、昨今の日本企業にここまで技術経営(MOT)が重要と言われるようになった背景には、以下のような事案が統計やデータで顕著に表れてきているからです。
- 日本のビジネスモデルは終焉を迎えた
- 日本の国際競争力は低下した
日本のビジネスモデルは終焉を迎えた
欧米において開発されてきた製品やサービスのキャッチアップ戦略を取ることによって、戦後の世界経済の一端を牽引してきた日本企業。
しかし現在、急速なグローバル化とIT化によって、開発した商品はすぐにコモディティー化してしまう時代となりました。
つまり今日本企業はそれまでのキャッチアップ型企業からフロントライナー型企業へと移行していく必要に迫られているのです。
しかし、皮肉にもこのキャッチアップ戦略の成功体験が邪魔をし、フロントライナー型企業へ転身するタイミングに乗り遅れています。
このままでは日本型のビジネスモデルは崩壊し、終焉を迎えてしまいます。
この現状を打破すべく、新たなイノベーションを生み出すためには技術経営(MOT)導入が必要不可欠となっているのです。
日本の国際競争力は低下した
「技術経営(MOT)が今注目されている」の項目でも上述したように日本の国際競争力は8位となっており、戦後に比べ現在は低下したと言われています。
これは日本の企業経営者が欧米の企業経営者に比べて、技術分野における戦略的マネジメントの経験不足が原因と分析されています。
世界屈指の技術力を保有しているにも関わらず、マネジメントとの連携が取れないがために、国際競争力が低下した事実を国が認識し始めたのです。
このような背景もあり、技術経営(MOT)導入が国策として取り組まれるようになりました。
技術経営(MOT)の効果・メリット
技術経営(MOT)を導入することが、今の日本企業にイノベーションを起こす有効な手段として位置づけられると期待されています。
技術経営(MOT)による効果やメリットは以下のような項目が挙げられます。
- 技術プラットフォームが確立する
- 収益の大幅増が期待できる
- さらなる新技術の獲得が見込める
技術プラットフォームが確立する
技術経営(MOT)を導入することで技術面と経営面の両方の戦略を融合させることができます。
それにより企業全体として目指す方向性が定まり、重要視するべきコアコンピタンスが明確になります。
自社のコアコンピタンスを活かし技術プラットフォームを確立することで新たな技術開発や商品開発ができるのようになり、結果企業競争力は向上していきます。
収益の大幅増が期待できる
技術経営(MOT)を導入することで新規事業を創出したり、専門のチームを立ち上げたりする戦略が取れるようになります。
取れる戦略の選択肢が広がるとイノベーションを起こしやすくなり、企業内のモチベーションも高くなります。
さらには分社化したり社内ベンチャー設立などに発展させたりすることもでき、収益の大幅増が期待できるようになります。
さらなる新技術の獲得が見込める
自社が保有していない技術や習得できていない技術は外部資源を活用することで、自社に取り入れることができる可能性が高まります。
大学や他企業との連携を強化したり、M&Aを行ったりすることによって自社には持ち得ていなかった新たな新技術を習得でき、開発の幅を広げることができます。
技術経営(MOT)の導入方法
技術経営(MOT)を導入するには以下の項目が重要なポイントとなります。
- 技術経営(MOT)に精通している人材を確保する
- 自社で人材を育成する
技術経営(MOT)に精通している人材を確保する
技術経営(MOT)を導入するには技術面と経営面の両面から事業を促進できる人材の確保が必要不可欠となります。
事業を率先して進められる総合力を持ち合わせ、イノベーションを導ける能力が求められます。
MOT人材を確保するには、企業をあげて積極的に採用活動を実施するほか、アウトソーシングを利用する方法もあります。
自社で人材を育成する
即戦力にはなりにくいですが、育成プログラムを活用し自社で人材を育成するのも技術経営(MOT)を導入する方法としては有効です。
主に大学や専門のスクール、財団法人の研修施設など、外部機関で育成プログラムを受講できます。
自社でMOT人材を育成するには、従業員にこれら外部機関で研修を受けてもらうのが一般的です。
技術経営(MOT)の企業事例
技術経営(MOT)を導入した戦略を取っている有名企業も多数あります。こちらでは技術経営(MOT)の代表的な例をご紹介いたします。
富士フイルムの事例
富士フイルムでは技術経営(MOT)視点での組織改革に長年取り組んできました。
過去デジタルカメラの普及によりアナログ写真事業の縮小を余儀なくされた富士フイルムでは、いまいちど自社の強みを改めて考察することによって、体制の立て直しを図ろうとしていました。
技術の棚卸しをすることによって、自社には何ができるのかをR&D部門で確認を行っていったのです。
その中においても、自社のコアコンピタンスは不採算分野であっても技術は守り、保有していく方針を固めています。
技術開発を行うと同時に市場開拓も行い、結果数多くの新規事業を創出することに成功しました。
「タッチパネル用透明導電フィルム事業」をはじめ「フラットパネルディスプレイ用光学フィルム事業」「データストレージテープ事業」など、それまでのアナログ時代のコアコンピタンスを活かして、うまくIT事業化への波に乗ることができたのです。
技術者ができることとできないことを見極め、それを事業創出にうまく活かせた事例であり、まさしく技術経営(MOT)が成功した代表例と言えます。
GAFA の事例
GAFA(GAFA=Google・Apple・Facebook・Amazon)も技術経営(MOT)が成功した企業群です。
もともとイノベーションがあふれる米国企業ですが、GAFAの場合はイノベーションの転換を図って成功しました。
それまでの生産工程の改善を図る「プロセスイノベーション」目線を、クオリティの高い革新的商品を生み出す「プロダクトイノベーション」目線へと視点を変えたのです。
この方針転換が功を奏し、GAFAを世界的企業へと躍進させていきました。
すでに日本企業でもこれらの取り組みは注目されており、技術経営(MOT)の代表例として知られています。
シャープの事例
シャープの「水で焼く」過熱水蒸気オーブン「ヘルシオ」も技術経営(MOT)を導入したことによる賜物の製品と言えます。
過熱水蒸気を活用したオーブンという、当時画期的だった商品の開発案はあったものの、技術面で多くの課題を抱えていました。
そのような中、大学や研究機関との連携を図る戦略を打ち立て、技術的な問題を次々と解決していきました。
加えて経営陣の強い経営イノベーションにより、なんとか商品の開発、販売にまでこぎつけました。
その後ヘルシオは10万円という高額オーブンにも関わらず、1ヶ月で2万台を突破し、半年強で10万台を売り上げました。
このように外部機関と連携を図ることも技術経営(MOT)のひとつの視点です。
技術経営(MOT)まとめ
欧米に比べて技術経営(MOT)の分野で遅れを取っている日本企業。
商品を開発してもすぐにコモディティー化してしまう現代だからこそ、技術経営(MOT)導入を急ぎ商品開発ペースを上げる必要があります。
自社ならではの価値を発揮するための方法として、技術経営(MOT)の導入をぜひ検討してみてください。
市場シェアを獲得するためには、自社独自の強みや価値(バリュープロポジション)を持つ必要があります。
自社の技術力をバリュープロポジションとするのであれば、他社との違いや顧客のニーズに合致しているかという点もリサーチをしましょう。
そうすることで自社ならではの提供価値を正しく顧客やユーザーに伝えることができ、自社を選ぶべき理由もまた明確に伝えることができます。
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