4P分析でH&Mのマーケティング戦略をひも解く
最終更新日:2024年05月27日
この記事では、スウェーデンのアパレル企業「H&M」のマーケティング戦略を4P分析の観点から解説していきます。どうぞ貴社のマーケティング戦略作成にお役立てください。
なお、4P分析はあくまでもマーケティング戦略を策定する一連の流れの一部で、ターゲット顧客や競合環境などが把握できた後で行う作業です。自社のマーケティング戦略を全体的に見直したいという方には、自社・顧客・競合を整理していく「3C分析」から始めることをおすすめします。
競合にはない、自社だけの強みをどの顧客にアピールすべきかを明確にしてからマーケティングミックスを決める4P分析を行うことで、一貫性のある戦略ができやすくなります。
下記のページには4P分析が記入するだけで簡単に進められるテンプレートも用意しておりますので、ぜひ活用してみてください。
そもそも4P分析とは
4P分析は、マーケティング戦略の基本ともされているフレームワークのひとつです。ユーザーニーズの把握と、市場での自社のポジションや強み・弱みなどを分析します。
まずは、基本のフレームワークである4P分析についてみていきましょう。
4Pとは?
4Pで分析するのは、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販売促進)」という4つの要素。これらの頭文字が共通しているため4Pというわけです。また、複数のマーケティング要素を組み合わせることで効果を発揮するという特徴から「マーケティングミックス(実行戦略)」ともよばれています。
4P分析は、別の戦略であらかじめ策定されている基本戦略を基に、ターゲット層に対してより効果的に訴求する手段を具体的に検討するものです。分析に用いられる4つの要素は、一貫性をもたせることによって、最大限の効果が期待できます。各要素で検討すべきポイントは次のとおりです。
- Product(製品)…製品を通して提供できるメリットや顧客ニーズの充足手段の検討
- Price(価格)…あらゆる切り口からみた価格の整合性(購入のしやすさ・製品価値とのバランス・適正な利益率など)の検討
- Place(流通)…製品を確実に届けられる流通形態(販売場所・流通経路・輸送手段など)の検討
- Promotion(販売促進)…製品の認知度を高める手段や適切かつ的確な情報発信の検討
以上のように4P分析は、「ユーザーに対して自社の製品をどのようなアプローチで訴求していくか」を明確化するフレームワークといえます。
先に述べたように、4P分析には一貫性が必要です。企業によっては、マーケティング担当の業務範疇外は別部署が対応しているというケースもあるようですが、情報共有の徹底が不十分だと、各要素をうまくリンクさせることができず、効果が落ちてしまう可能性が懸念されます。4P分析の成功には、企業全体で一貫性を持たせられるような仕組みづくりが必要かもしれません。
4Pの目的とは?
4P分析の目的は、「顧客のニーズに合った製品を確実に届けること」です。
4P分析で重視すべきとされているのは、「一貫性」と「バランス」といわれています。また、4Pのうちどこが強みで、どこが弱みなのかを分析しながら、差別化や課題の克服を検討することが大切です。そのうえで、顧客のベネフィットを満たせるような戦略を立てていくことがポイントです。
次に、実際の分析事例として世界的ファストファッションブランド「H&M」の4P分析をみてみましょう。
H&Mにおける「Product」
H&Mでは、「おしゃれに興味があり、トレンドに敏感で、高額でなければ購入する」という顧客をターゲット層としています。H&Mの製品コンセプトは、「高級ブランドの類似品を低価格で提供する」というもの。つまり、自社でトレンドを作り出す必要がないため、製品設計やデザインにかかるコストと時間を削減でき、低価格で移り変わりの早いトレンドに遅れることなく製品を提供できるというわけです。
H&Mにおける「Price」
H&Mが価格競争で優位性を保っている背景には、速度の経済による「回転の速さ」があります。いち早くトレンド感あふれる製品を提供することが顧客のニーズを満たし、H&Mのブランディングやロイヤリティを構築しているのです。
さらに、H&Mは自社工場を保有していないということも低価格の実現に大きく関わっています。H&Mの製品は、世界800以上のメーカーへアウトソーシングしており、マーケットや物流の傾向を見極めたうえで、逐次最適なメーカーを選択して大量生産を行っているのです。
「速さ」と「大量生産」を取り入れたことで、他社と一線を画した優位性を維持しているといえます。
H&Mにおける「Place」
H&Mでは、世界中の契約メーカーで生産した製品を海運で運ぶことによって、輸送コストを削減し、製品の低価格化につなげています。似たようなコンセプトを掲げている競合にZARAがありますが、こちらは流通を武器としているため、あえてコストの高い空輸を利用。そのため、H&Mは製品の回転率では及ばないものの、価格に関しては優位に立っているといえるようです。
また、H&Mは早い段階からオンラインストアでの販売に力を入れてきました。従来であれば、ヨーロッパのトレンドが他の地域に伝わるまでにタイムロスが発生していましたが、オンラインストアを活用することで、世界中の顧客に向けてタイムリーにトレンドを届けることが可能となり、この戦略がH&M成長の起爆剤になったと考えられています。
H&Mにおける「Promotion」
H&Mのプロモーションは、すべてにおいて一貫性が保たれているのが特徴です。広告・雑誌・PRイベント・ファッションショー・コレクションなどに共通しているコンセプトは「fashion and quality at the best price」。高級ブランドを彷彿とさせるようなプロモーションを展開しています。
こうしたプロモーションを展開していながら、実際の店舗では低価格な製品を販売しているというギャップが顧客の購買意欲を刺激。さらに、各国の顧客特性に合わせた店舗づくりにもこだわることで、店舗体験の向上を図り、売上につなげているのです。