DTC広告によるマーケティング手法とは?【製薬会社のプロモーション戦略】
公開日:2021年05月25日
DTC広告の定義と製薬会社のマーケティングの実情
DTC( Direct-to-consumer adbertising)広告とは医療関係者に向けたものではなく、患者を含む一般消費者を対象とした医薬品の販売戦略や広告を指します。マスメディアを通した処方箋広告と同じ意味を持つ言葉です。
DTC広告は製薬企業が消費者向けに行うブランドコミュニケーションで、日本でもテレビCMや新聞などにより、疾患の正しい知識を伝える活動やジェネリック医薬品などの広告を見る機会が増えました。
アメリカやとニュージーランドでは完全に合法とされていますが、製薬会社による巨額広告費投下が問題視されている、という実情もあります。日本をはじめ消費者に直接的な医薬品の広告を禁じている国もありますが、この制限が医療関係者と消費者の情報格差を生み、情報の不均衡を助長している、との指摘もあります。
日本では薬機法により、OTC医薬品のみ医薬品名を伝える広告が認められており、病院で処方される医療用医薬品の広告は禁じられています。法令による制約が多い医薬品の広告ですが、本記事ではDTC広告による医薬品プロモーションの実情と課題、DTC広告の事例などについて取り上げていきます。
DTC広告とは患者に直接働きかけるマーケティング手法
DTC広告のはじまりは、1981年に肺炎球菌ワクチンの広告を打ち出したMSD製薬です。日本ではDTCマーケティングと呼ばれるのが一般的ですが、アメリカではDTCコミュニケーションの名前で知られています。
30年以上医療用医薬品に関わり、製薬会社のマーケティングに精通する古川隆氏(株式会社アーベーツェー代表取締役)は、DTCについて以下の定義を説いています。
古川(2002)は DTCを製薬企業が特定の疾患に焦点を当て自社製品の処方に結び付けるための総合的なマーケティング・コミュニケーション活動であると定義している。特定のブランドのコミュニケーションであることを強調しているほか DTCの構成要素を統合型マーケティング・コミュニケーション(IntegratedMarketingCommunication)の枠組みで捉えたのである。引用元:関西学院大学リポジトリ浦田 剛著「患者向け情報サイトからの検索動線と知覚品質の形成 : 医療サービスの品質評価におけるDirecttoConsumer(DTC)マーケティングの効果」(https://kwansei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=22644&item_no=1&page_id=30&block_id=85)
DTC広告を製薬会社のブランドコミュニケーションと位置付け、医薬品のマーケティングに必要な広告手段であることを論じています。
ただし、日本では関連法規への懸念からダイレクトに消費者向けの情報発信ができていない実情があります。製薬会社のプロモーションは、BtoD(Business to Doctor)のためのMAツール導入など、医療従事者向けの広告がメインであり、患者向けにはなかなか情報発信ができていないというのが実情です。
日本のDTC広告では医薬品名の公開に制限がある
日本のDTC広告には、以下の3タイプの広告があります。
- 疾患啓発広告
- 製薬産業広告
- 治験広告
日本ではいずれの広告にも、薬機法によりさまざまな制約があります。たとえば、薬局やドラッグストアなどで購入できる処方箋不要のOTC医薬品や新薬の特許が失効したジェネリック医薬品などが該当します。しかし、処方箋を要する医薬品は、広告で名前を公開できません。
製薬会社は直接消費者に販売できない
消費者が医薬品を購入できるのは、薬剤師在中の薬局やドラッグストアです。製薬会社自ら消費者と顔を合わせて販売することは難しいでしょう。そのため、消費者が抱える悩みがわかりにくく、こまかなニーズに応えられないのが実情。加えて、売上や成果を実感しにくいことも挙げられます。
DTC広告は日本では合法化されていない?
日本のDTCマーケティングには特有の難しさがあります。薬機法で禁じられているのは、商品名を広告で提示することです。しかし、新薬の特許期間が失効したジェネリック医薬品だけは医薬品名の公開が可能です。
薬機法による医薬品広告の該当性
基本中の基本ではありますが、厚労省の資料にもあるように下記3項目を満たしている場合、広告と見なされ法令の規制を受けます。
薬事法における医薬品等の広告の該当性
- 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること
- 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
引用元:厚労省資料「薬事法における広告規制」(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000059731.pdf)
仮に3項目のうちひとつでも欠けていれば、薬機法上の規制は受けない、というのが原則です。
また厚生労働省や各都道府県では薬事監視業務を行っています。医薬品や医療系のほかの広告同様、DTC広告に関して不適切な表現や違反がないかどうかを確認する業務です。監視の対象には製薬会社のホームページも含まれます。
- 新聞
- 折込チラシ
- 雑誌
- パンフレット
- ホームページ
薬機法や景表法などは消費者保護を目的としているため、誘導性や優良誤認、有利誤認を招く誇大な広告としてみなされないよう、文脈や表現に細心の注意を払う必要があります。
疾病・症状啓発の役割を担うのは製薬会社
疾病・症状啓発については課題があるものの、健康への意識を高めるために製薬会社が多くの人が認知していない疾患や医薬品の知識を広め、正しい情報を発信していくことは有意義です。
ただしDTC広告を打ち出すなら、薬機法などの法令に基づき制定された製薬協がを遵守する必要があります。購入意欲を高める目的や特定医薬品の商品名、製作した企業名を明確にし、一般消費者がわかりやすい状態でなければ医薬品の広告として見なされません。
ただし製薬協コード・オブ・プラクティス(2019年10月1日実施)には、以下の条件を満たす必要があると明記されてます。これはDTC広告にも当てはまります。
(1) 効能・効果、用法・用量等は承認を受けた範囲を逸脱して記載しない。
(2) 有効性、安全性等については、虚偽もしくは誇大な表現または誤解を招くおそれのある表示、レイアウト、表現を用いない。 特に安全であることを強調・保証する表現をしてはならない。
(3) 有効性に偏ることなく、副作用等の安全性に関する情報も公平に記載する。
(4) 他剤との比較は、客観性のあるデータに基づき原則として一般的名称をもって行う。
(5) 他社および他社品を中傷・誹謗した記載をしない。
(6) 例外的なデータを取り上げ、それが一般的事実であるかのような印象を与える表現をしない。 (7) 誤解を招くような、または医薬品としての品位を損なうような写真、イラスト等を用いない。
(8) プロモーション用印刷物および広告等は、会員会社内に医療用医薬品製品情報概要管理責任者等を中心とする管理体 制を確立し、その審査を経たもののみを使用する。 引用元:製薬協コード・オブ・プラクティス(2019年10月1日実施)(http://www.jpma.or.jp/about/basis/code/pdf/code2.pdf)
広告の表現方法に注意
DTC広告の表現方法に関しては、2015年に日本製薬工業協会コード委員会による通知で注意が呼びかけられています。広告内で副作用などのリスクが十分に説明されておらず、曖昧な表現で過度に期待を持たせる内容では、消費者に誤解を与える可能性があります。また、消費者の不安を煽る内容も注意が必要です。
期待を助長させる表現
「薬で完治できます」のような表現は、特定医薬品の広告だと消費者が勘違いする可能性があります。DTC広告に求められる記述の1つとして挙げられるのは、疾患を説明する内容です。また必要であれば医療機関への訪問や医師からの受診などを勧める内容も盛り込むように促されています。
病気を決定づける表現
「〇〇の症状は△△という疾患です」など、確実性を連想させる表現は好ましくありません。病気かどうかは、医師による受診や検査によって診断されます。病気の診断は症状だけでできるものではにないため、さも病気かのような提示は控えるように通知されています。
不安を煽る表現
「何も対処しなければ慢性化する」「重症化すれば死にいたる」などは消費者の不安を煽る表現です。疾患の危険性を解説する場合、医学的なエビデンスがあったとしてもあからさまな記述は好ましくありません。
DTC広告のメリット
DTC広告を打ち出すメリットとして、処方される医薬品の増加が見込まれます。また多くの消費者に認知されるだけでなく、医師や医療関係者が自社や自社の医薬品を認知する機会が増え、イメージアップに繋がるでしょう。
医薬品の売上アップ
DTC広告により医療機関へ足を運ぶ消費者が増えれば、処方される医薬品の数も増加が見込めるため、売上の向上が期待できるでしょう。
消費者への認知度アップ
認知度が低い傾向にある外資系の製薬会社などは、DTC広告により消費者の認知度向上に期待できます。
医師や医療関係者の認知度アップ
DTC広告で自社の医薬品を知った患者は受付や診察の際、自社の企業名や医薬品名を伝えるでしょう。医師の診断を受ける消費者が増加すると、医師に対してアピールが可能です。
DTC広告のデメリット
DTC広告は内容に注意しなければイメージダウンに繋がります。過度な表現やデザインは企業としての信頼度が低下する原因になりうるでしょう。また広告を作成しても広告費に対し、相応の売上が見込めない可能性もあります。
悪い印象を招く可能性がある
医師や医療機関は、大掛かりで目立つ広告を敬遠する傾向があるため、広告内容の節度を守ることが大切です。適切な表現やデザインを用いた広告でなければ、自社による医薬品の処方を促すための広告で、嫌悪感をいだかれる可能性があります。
信頼度が下がる
行き過ぎた表現を使用したDTC広告は、「医薬品を服用すれば病気が治る」と患者に大きな期待を持たせます。万が一効き目がなかったり病気が完治しなかったりした場合は、世間に裏切り行為と見なされ、詐欺と疑われる可能性は否定できません。
消費者だけでなく医師や医療関係者の信頼を損ね、企業や医薬品のイメージダウンに繋がるでしょう。
コストがかかる
DTC広告には多額の広告費がかかります。もし広告の効果が薄く、医薬品の処方が想定よりも少ない場合は、費用対効果に見合う売上が見込めない可能性があるでしょう。
DTC広告のマーケティングに有効な手法
ジェネリック医薬品のような広告ができずとも、戦略的コンテンツマーケティングを駆使することで、患者にダイレクトに情報を届けることは可能です。薬機法などの関連法規に抵触しないDTC広告のマーケティング手法を紹介します。
Webメディアへの啓発コンテンツの提供
DTC広告において、特定の医薬品名の掲出や消費者への誘導性を含む内容はNG行為とされています。しかし、製薬会社として特定領域(特定疾病用医薬品を除く)の症状・疾病啓発については、医薬品のオーソリティーとしての情報発信なら可能です。
たとえば健康系メディアや医療系メディア、病院検索メディアなど、消費者が生活の質(QOL)の向上に繋がるコンテンツの提供が有効です。
消費者の関心を誘う内容を充実させ、自社の企業名や医薬品を知ってもらうきっかけになるでしょう。
自社ホームページ上におけるコンテンツマーケティング
薬機法や適正広告基準にもあるように、ホームページは「広告」なので法令遵守はマストです。しかし、特定領域における知見を直接患者やその家族に届ける目的は有効といえます。
ただしホームページを活用するには、医療関係者用と患者専用の入り口をそれぞれ設置するなど、一般消費者との情報流入経路の住み分けに工夫が必要です。
これはBtoC(企業から消費者向けにアプローチ)とBtoD(企業から医師・医療関係者にアプローチ)では、それぞれの対象者に響くコンテンツが異なるためです。
製薬会社によるマーケティングは、ほとんどが医療関係者を対象にしており、発信する情報は消費者に届いていない傾向があります。
ゆえに、消費者が関心を寄せる情報に加え、わかりやすく親しみやすいコンテンツとして提供するホームページを作ることが大切です。
疾患や症状などのオウンドメディアの運用
DTC広告におけるもっとも効果的な手法が「オウンドメディアの制作・運用」です。消費者のニーズを満たす目的で制作されるオウンドメディアは、製薬会社のDTC広告に位置づけられています。直接医薬品を宣伝するのではなく、消費者の興味や関心を集め、悩みの解決が可能です。
ただし、オウンドメディアの制作にはコストや時間がかかり、広告としての効果に即効性がないデメリットもあります。とはいえ、中長期的な啓蒙と製薬会社のオーソライズ、ブランディングには役立つでしょう。
以下、製薬会社によるオウンドメディアの事例をいくつか紹介していきます。
第一三共ヘルスケア株式会社「健康美塾」
美と健康に加え、子育て女性をターゲットにしたオウンドメディアです。親近感が湧くようなイラストや漫画を取り入れ、女性の悩みに寄り添っています。「子育てダイアリー」や「くすりと健康の思い込みあるある」など、個性的な6個のカテゴリを展開。
とくに、コラムニストの辛酸なめ子さんによる連載記事「ガールズ本音リサーチ」では、世の女性たちへ向けてアンケートを実施し、協力者には同社の製品を抽選でプレゼントしています。親しみやすい記事や消費者参加型の企画などにより、他社との差別化を図っている印象があるメディアです。
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ファイザー株式会社「すぐ禁煙.jp」
禁煙したい消費者に向けた情報を届けているオウンドメディアです。発信元は、新型コロナウイルスのワクチン開発も行っているファイザー株式会社。
たばこの害だけでなく、禁煙するとどのような良いことが起こるのかなど、カテゴリ別で紹介されています。禁煙外来のカテゴリでは、治療にかかる概算やスケジュール、禁煙補助薬として特定の医薬品名を避け紹介しています。
また、ニコチン依存症判定テストでセルフチェックも可能です。同ページには「気になる方は医師へ相談するように」と消費者の目に留まりやすいように、薬機法により表示が定められた文章が添えられています。
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「ぜんそくナビ」MSD株式会社
アメリカに本社を構える製薬会社、MSD株式会社によるオウンドメディアです。発信しているのは喘息に悩む人のための情報。とくに専門医によるQ&Aやクイズ形式のカテゴリでは、症状や日常での注意点などを楽しみながら喘息の基礎情報について学べる工夫が施されています。
また喘息コントロールチェックでは、質問へ現在の状態を回答するだけで気になる喘息の症状を確認できます。ユーモア性に富んだコンテンツにより、喘息に悩む消費者に寄り添った印象があるメディアです。
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「小林製薬の漢方・生薬」小林製薬株式会社
年齢を重ね体調不良が続く人や漢方・生薬に関心を持った人に向けた、小林製薬株式会社によるオウンドメディアです。
漢方の起源や考え方、西洋医学との違いなど、漢方の基本情報に加え、同社のこだわりや生薬の豆知識などを公開。また「お悩みカテゴリー」では、気持ちや体の部位などの不調から効果が期待できるおすすめの漢方を紹介しています。
こちらのオウンドメディアは、「漢方=小林製薬」という印象を消費者に与え、漢方や生薬に熟知している製薬会社だとアピールする目的があるのではないでしょうか。誰にでもわかりやすい情報提供で、消費者の悩みを解決できるサイトです。
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製薬会社のオウンドメディアによるインバウンドマーケティングの事例を紹介
製薬会社に必須のデジタルマーケティングとインバウンドマーケティング
インターネットが普及した現代では気軽に情報を得られるため、デジタルエンゲージメントを受け入れる医師や消費者は増加の一途を辿っています。製薬会社もそれに合わせて新たなマーケティングを実施する必要があるでしょう。
消費者は悩みを自ら検索し解決しようとするため、消費者の需要を満たすコンテンツの制作は効果的です。だからこそ消費者に直接訴求が可能なオウンドメディアの運用は、販促経路としての有用性が高いといえます。
消費者が何を求めているのかを考察し、医薬品のなかでも専門的な分野の情報を提供できれば、自社の価値や知名度が高まるでしょう。
しかし、消費者が求めるオウンドメディアの制作は、開設し公開するまでに時間がかかり費用もかさみます。自社だけですべてを担うのが難しい場合は、オウンドメディアに精通した専門会社にゆだねてみてはいかがでしょう。
DTC広告や医薬品のマーケティングにはオウンドメディア
DTC広告を打ち出すなら、薬機法などの関連法規を順守した広告制作がマストです。優良誤認や有利誤認を与える誇大広告や、特定の医療用医薬品に誘導するコンテンツはNGです。法令の抵触を回避した上で、消費者のニーズを汲んだ内容のオウンドメディアをDTC広告として活用する、ということが前提条件になります。
Zenkenには、7,000件以上のメディア制作や運用実績があります。患者の悩みや特定の症状にスポットを当てたWeb戦略や、医薬品の売上に効果的なマーケティング施策をお考えなら、ぜひ一度ご相談ください。
Zenkenのオウンドメディアについて
ユーザーの悩みや企業の課題に専門家として情報提供できる強みがあるなら、ターゲットをセグメントしたオウンドメディアによるDTC広告が、インバウンドマーケティングに有効です。
インバウンドマーケティングはユーザーに「見つけてもらう」Web上の施策のことですが、オウンドメディアで患者を含むユーザーに疾病や症状、生活習慣などに関する有益な情報を発信することで、製薬会社のブランディングにも役立ち、一般消費者の信頼を得ることにもつながります。
Zenkenが制作する
オウンドメディアについて
くわしく読んでみる
また社会的貢献をつねに求められる製薬企業のCSR施策のひとつとして、DTC広告に注力する傾向が今後ますます高まっていく可能性があります。ただ、オウンドメディアの作成には、キーワード選定やターゲットやテーマのセグメンテーション、SEOを施すなどの専門的なマーケティングスキルが必要です。
さらに薬機法などの法令の知識も必須となるため、医薬品マーケティングのコンサルテーション会社や、弊社のような戦略的コンテンツマーケティングを専門とする外部パートナーに依頼するのが効率的です。
以下のフォームから弊社までご相談をいただければ、折り返しご連絡を差し上げます。ご要望があれば、オンライン商談システムを利用して直接これまでの実績などについて、ご説明することも可能です
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